境界が揺れると、人は少し不安になる。
それまで信じていた立場や役割が、
ほんのわずかズレるからだ。
でも、その揺れがなければ、
本当に大切なものには触れられない。
境界は、最初から明確に存在していたわけではない。
多くの場合、それは後から引かれた線だ。
正しさと間違い。
内と外。
味方と他人。
便利で、分かりやすく、安心できる。
だから人は境界を信じ、守ろうとする。
けれど、環境が変わったとき。
人と出会ったとき。
あるいは、何気ない違和感に立ち止まったとき。
境界は、静かに揺れ始める。
それは劇的な崩壊ではない。
ほんの数ミリのズレだ。
それでも、そのズレは確かに感じ取れる。
境界が揺れると、
自分が何者で、
どこに立っているのかが、急に分からなくなる。
役割が先に立っていた人ほど、
その不安は大きい。
けれど同時に、
役割の奥にあったものが、
初めて顔を出す瞬間でもある。
守ってきたのは、立場だったのか。
それとも、信念だったのか。
続けてきたのは、習慣だったのか。
それとも、意思だったのか。
境界が揺れたとき、
それらは否応なく問い直される。
境界が揺れたあと、
何かが壊れることもある。
けれど同時に、
ずっと見えなかったものが、
そこにあったと気づくこともある。
そのとき、人はようやく
自分の立っている場所を知る。
