「相手は自分の鏡」──そう言われることがある。
けれど、鏡にもいろんな形がある。
澄んだ平面鏡もあれば、光を乱反射する万華鏡、
ゆがみを映す凸凹鏡もある。

誰かと向き合うとき、
そこに映るのは必ずしも“そのままの自分”ではない。
相手の感情、経験、価値観というガラスを通して、
光は曲がり、ねじれ、そして独自の模様を描く。

怒りをぶつける人は、怒りを拡大する凹面鏡かもしれない。
やさしさを何倍にも返す人は、光を分散させる万華鏡かもしれない。
そこに映る自分を見て「これは自分ではない」と感じるのは、
当然のことなのだと思う。

大切なのは、映る像を正すことではなく、
鏡の形を見極めること。
相手がどんな鏡なのかを理解すれば、
そこに映る像の意味も変わっていく。

そして、ふと湖面をのぞくときのように気づく。
空はいつも同じ場所にあるのに、
湖面が揺れれば空も揺れて見える。
それでも、風がやめば、空は再び澄んで映る。

――人もまた同じ。
相手を通して見える自分の像が歪むときは、
心の湖面が少し揺れているだけ。
静けさを取り戻せば、そこに映る空は、
再びまっすぐに広がっていく。